bnkosyouのブログ

表記された言葉の奥にあるもの//言い終えて何かあるか、俳句は詩、ということを忘れている人は多い

「堅く短きもの」とは何だろう

『風花や堅く短きもの思ふ』
三橋敏雄、岡井隆と選んだ。
「風花」は青天にチラつく雪のこと。
「堅く短きもの」は読者それぞれ勝手に想像すべきもので、具体的に何と指定することはできない。
ちなみにわたし(著者)はそのような形状の前衛的オブジェを想像した。
岡井・・「この句はいいんじゃないですか、連想がひろがります」
三橋『今日の句の中でこれが一番不思議な句でね、「堅く短きもの」とは何だろうと問う人もいるだろうけどね、それは人それぞれが考えればいいことで、むしろこの句の志向している抽象性をこそ味わうべきなんだな。
また実際、抽象的な事をよんでいながら一句としておさまっているしね』

小林恭二・・「摂津さん、採られていませんがいかがでしょう」
摂津幸彦・・『「堅く短きもの」に具体的なものをあてはめるか、あるいは人生のような抽象的なものを当てはめるかで読みは違ってくるでしょうね。
しかし、具体的なものを考えだすとあまり面白くないね』

藤田湘子『僕はやっぱり中七、下五の受け止め方で、僕の方でとまどってしまったことがあるな。
「風花」から「堅く」とか、あるいは「短き」ってまでは線が生まれてるなって感じがあるけれど、両方あわせると印象が相殺してしまうかな』

有馬朗人・・『観念を面白いと思うかどうかだな、風花から生まれる連想として、うまく中七下五が機能しているかどうかだな』

はからずも、それぞれの俳人が自分の俳句観のもっとも深いところを照らし合わせているような格好になった。
やはり句にそれだけ力があるということだろう。

岸本尚毅・・『いろいろあてはまるものを想像したんだけれどね、灯籠とか机の端とか、しかし・・・・・うーん、結局この句の抽象性になじめないものがありまして、採れませんでした』

徹底的にものに即した俳句を作る岸本尚毅らしい感想である。

小澤實・・『「堅く短きもの」は面白いと思いますけど「思う」というゆるみが気になりました』
有馬朗人・・『(一人言のように)「思ふ」はいらないんじゃないかなあ』
大木あまり・・『本当はこーゆー句好きなんだけど、自分にこーゆーのは作ってはいけないと言い聞かせているもんですから。
だけどこーゆー句すきなのヨ!』
小林恭二・・『好きなのよって(笑い)』
大木あまり・・『それに風花の説明のような気がしたの』

小林恭二・・『作者はどなたでしょう』

摂津『(静かな口調で)摂津です』
一瞬の沈黙の後、三橋敏雄が総括するように言った。
『僕はいただいたけれども、風花との照応かんけいに無理があると思った。
無季論者だったら、風花を持ってくる必要はないだろうな。
抽象的なものを上五に持ってきて、それでまとめきればいいんだよ。
風花なんか持ってきちゃうから、具体的なものを想像させるような道を開いちゃうんだ』

大木・・『(つぶやくように)うらやましいな、こーゆー句作れて』

藤田・・『(しみじみとした口調で)だけどねえ、あまりさんの好きだけど作らないというのも、立派な態度だよ』